円地文子とかき氷

古典の教養豊かな作家
円地文子(えんちふみこ・1905~86)は、国語学者、上田万年(うえだかずとし)の次女として浅草に生まれ、幼少期から古典に親しみました。劇作家からのちに小説家に転じ、『ひもじい月日』『女坂』など、女性の心理を巧みに描いた作品が評価され、作家としての地位を確立。また、『源氏物語』の現代語訳にも尽力し、昭和60年(1985)には文化勲章を受章しました。文豪・谷崎潤一郎と親交が深く、谷崎潤一郎賞では初回から選考委員を務めたことでも知られています。
この上ない満足
彼女が昭和39年に発表したエッセイの中で好きなものとしてあげたのが、氷です。
幼い頃、ガラスの細い管のちゃらちゃら鳴る暖簾を下げた氷屋が、苺、レモン、あずき、汁粉など色々な氷水(かき氷)を商っており、そこで口にしたのが最初とのこと。一時は胃腸に悪いかと思いやめていたが、電気冷蔵庫で好きな時に氷を食べられるようになり、ここ数年で再びファンになったそうです。
すでに60歳を目前にしていた文子ですが、「氷のなめらかに清澄で見る間に形の変って行く視覚的な美しさと、口にふくんだ時の冷たさの快感は形容できないほどたのしい」「ソーダ水やシロップの水にふんだんに氷を入れて食べることにこの上ない満足を感じている」と綴っています。幼少期、限られた機会にしか口にすることができなかった氷を、自由に食べられるようになった嬉しさや、食べる際のわくわくする気持ちが伝わってきますね。
実は、かき氷には東西で違いがありました。現在よく見る、氷の上にシロップをかけるのは関西風で、文子が食べたように、シロップの上に氷をのせるのは東京風といわれます。浅草生まれの彼女にとって、江戸っ子の氷といえばこちらだったのでしょう。
文子のように東京風にして、氷の見た目の美しさや食感を意識しながら食べてみると、いつもとは違った魅力を感じられるかもしれません。
※この連載を元にした書籍 『和菓子を愛した人たち』山川出版社・1,800円(+税)が刊行されました。是非ご一読くださいませ。(2017年6月2日)
参考文献
「氷」(『円地文子全集』第15巻 新潮社 1978年)
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