柳田國男と餅
日本民俗学を創始
柳田國男(やなぎたくにお・1875~1962)は日本民俗学の創始者として讃えられる人物です。農村の貧困や飢饉に問題意識をもち、官僚の道を歩もうと、東京帝国大学法科大学政治科を卒業後、農商務省に入省。その後も数々の要職につきますが、全国各地を視察する中で、民俗学に目覚め、昭和22年(1947)、北多摩郡砧村(現・東京都世田谷区)の自宅書斎に民俗学研究所を設立します。各地の言葉、昔話や伝承、行事や信仰に関わる資料収集に努め、民俗学の理論や方法論を示し、『遠野物語』『海上の道』ほか数多くの著作を残しました
餅の力に言及
和菓子関係では、年中行事や人生儀礼に用意される餅や団子、小豆についての考察が注目されます。特に餅についての記述は多く、たとえば、歳徳神(としとくじん)に供える鏡餅、農作業の営みに入る頃に搗く餅、お産で弱った婦人に食べさせる餅などが「力餅」とも呼ばれることに言及しています。人が亡くなった折、出棺に先立って「血族の者」が力餅を食べるなど、現在あまり知られていない風習も見え、資料として興味深いものです。今も餅を入れたうどんを「力うどん」と呼びますが、餅が力を与えるものとしていかに重視されてきたかがよくわかります。
餅は心臓の形?
柳田は、鏡餅を重ね、高くして円錐形にすることに、三角の握り飯と共通する意味を見、「是は人間の心臓の形を、象どつて居たものでは無いか」と書いています。「上の尖つた三角形がいつも人生の大事を表徴して居るやうに感じて居る」として、円錐形に見える鏡餅や粽、菱餅のように三角を連想させる餅に、人間の臓器として大事な心臓に通じるものがあると考えたのです。心臓の形を円錐形や三角にたとえることについては少々無理もありますが、餅が稲作や霊魂の象徴とされてきたことはよくいわれるところ。霊力のある神聖な食べ物だからこそ、万物の更新を願う新年に鏡餅を供えたり、お雑煮にしていただいたりします。スーパーでパックの鏡餅や切り餅がたやすく手に入るようになった現在、柳田の考察は、餅を食べる意味についての認識を新たにさせてくれるのではないでしょうか。
※この連載を元にした書籍 『和菓子を愛した人たち』(山川出版社・1,800円+税)が刊行されました。是非ご一読くださいませ。(2017年6月2日)
参考文献
「食物と心臓」(『定本 柳田國男集』第14巻 筑摩書房 1969年)
餅については、以下でも取り上げています。詳しく知りたい方は、ぜひご覧ください。
機関誌『和菓子』31号 特集「餅」
機関誌『和菓子』についてはこちら。
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