十返舎一九『餅菓子即席手製集』 文化2年(1805)

2025.12.24

菓子資料室 虎屋文庫では虎屋歴代の古文書や古器物に加え、菓子に関わるさまざまな資料を所蔵しています。
このコーナーでは、その一部をご紹介していきます。

 

カステラづくりの挿絵

『東海道中膝栗毛』で知られる戯作者の十返舎一九(じっぺんしゃいっく)(17651831)

『餅菓子即席手製集』は彼の手がけた菓子製法書です。餅や饅頭など、比較的庶民的な菓子を中心に70種類以上が紹介されており、挿絵も全て一九の手によるものとされます。

餅菓子とはいえ、本書には意外にも南蛮菓子が見られます。なかでも注目したいのはカステラで、製造風景の挿絵つきで紹介されています(上図)。生地を流した平鍋を、焼き釜の中に入れて焼いたり、できあがったものを切り分けたりする姿が見られ、興味深いです。これ以外にも、菓子を幸せそうに頬張る人や、菓子づくりの様子を見つめる子供など、菓子を楽しむさまざまな人々が描かれており、本書の大きな魅力となっています。

記載されている材料を見ると、どれも業務用、あるいは大人数向けの分量のため、当時の読者は作るというより、挿絵つきの読み物として本書に親しんでいたのではないでしょうか。一九も、主な読者層である一般庶民が楽しめるように、というねらいを持って絵を描いたのかもしれません。

他の製法書の場合、人物の絵はほとんどなく、このように人々の活気が伝わってくるものは大変珍しいといえます。不正確な記述も多い『餅菓子即席手製集』ですが、これらの挿絵のおかげで、当時の暮らしや菓子づくりの様子を伝える貴重な資料として注目できます。

 

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参考文献

鈴木晋一、松本仲子編訳注『近世菓子製法書集成Ⅰ・Ⅱ』平凡社、2003
松下幸子「餅菓子即席手製集」『vesta』第33号、1999年、p83

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